放射線治療開始

 翌週から、いよいよ放射線治療が始まった。お昼前の時間で固定で予約を入れ、時間休をとり、平日毎日、25回連続して通うこととなる。

 それまでは、抗がん剤治療もなく、手術も2泊3日で済み、仕事も普通にしていたので、あまり「患者」という感覚がなかったのだけれど、放射線治療は始まって、「ああ、本当に、がん患者なんだな」と思った。

 総合受付で受付をし、放射線科で受付カードを出して、治療の順番が来るのを待つ。名前を呼ばれたら、治療室に移動。治療室は、病院の地下の、一番端っこにあった。古い病院だけれど、そこだけは真新しく、人もほとんどいない。最新エリアの前に長椅子が置いてあり、そこでまた、名前を呼ばれるまで待つ。最新エリアから患者さんらしき女性が一人出てくると同時に、名前を呼ばれ、中に通された。緊張しながら治療室の中に進むと、人が寝られるような台と、何やら最新の機械がある。なんか、NASAみたい。NASAは見たことはないけれど、そう思った。放射線技師さん?は3人いた。

 先日作った器具は、放射線を当てる右乳房部分が丸くくり抜いてある。初回ということもあり、一度位置を固定して確認し、くり抜いてある部分をなぞるように、胸にマジックで印がつけられていく。ほかにも、黒やら赤やらで胸にたくさんの印をつけられ、なんだか微妙な気分だった。もちろん、治療のためなので仕方がないのはわかっているけれど。しかし、この科学が進んだ世の中で、普通のマジックで書くんだなぁ、というのも、少し不思議だった。

 印をつけ終わると、いよいよ治療開始。私は台に固定され、技師さんたち3人は別室に移動。スピーカーから「始めます」とアナウンスが聞こえた後、機械が私の周りを回りだした。光が出るわけでも、熱くなるわけでもない。機械が私の右脇から左脇まで半周するのに、30秒もかからないぐらい。終わると、技師さんたちがやってきて、固定器具を外してくれた。最後に、お風呂に入るときは擦らないように、マジックの印を消さないようにという注意事項を聞いて、治療はこれで終了。服を着て、帰る。これを25回、繰り返すのだ。放射線を当てた右胸も、特に変化はない。本当に放射線が出てるの?と思ってしまった。病院の食堂で昼ご飯を食べて、職場に戻った。体調は、その日は変化なし。だるくなることもなく、「全然大丈夫そう!」と思った。